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Curiosities of Lotus Asia: Chapter 27

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大人気同人STGのノベル連載も今回でひとまず終了。長い間応援ありがとうございました!! 『東方』の世界は、今後もさまざまなメディアで広がっていく予定。本連載をまとめた単行本も、2008年春発売予定なのでお楽しみに!!
幸運のメカニズム Mechanism of Fortune
ここに賽子が一つあるとする。この賽子を机の上に投げた時、賽の目は誰にも予想できないだろう。
例として投げた賽子の目が一だったとする。では、もう一度同じ賽子を投げたときはどうなるだろうか。
勿論普通に投げたら何が出るのか判らないので、ある条件を付けるとする。条件とは賽子の初期条件を一致させる事、つまり位置、角度、力の入れ具合も全く一緒にすると言う条件である。
するとどうなるだろうか? 賽子は一回目と同じ様に回転しながら空中を舞い、そして全く同じ時間に全く同じ角度で机の同じ場所に当たり、同じように跳ねるだろう。初期条件を全く同じにする事は妖怪ならば出来ない事もないが、人間の手では難しいかも知れない。その場合はそういう装置を作っても良い。
これならば、賽の目は再び一になる筈である。この事実が何を意味するかと言うと、何らかの拍子で世界に存在するあらゆる物体が、過去の一点と全く同じ状態に陥ったとしたら、そこから歴史が繰り返されるという事である。その瞬間から予定された未来が訪れる。さらに言うと、繰り返された歴史の最後には、必ずもう一度今の状態に戻ってくる事も予定されているのだ。もしかしたら世界は既に何度もループしているのかも知れない。
『――カランカラン』
店の扉がいつもの様に来客の音を立てたのは、ある作業をしている途中だった。日常がループしているかいないかを確かめる為に必要な作業だ。
それは日記を書く事である。二、三年前から書き始めた日記は、分量にして既に数冊分になっていた。日記とは、僕が見てきた幻想郷の仕組みを書き留めた物であり、有り体に言えば後の歴史書である。
妖怪は、人間より圧倒的に寿命が長い為か、余り幻想郷の歴史を纏めようとしない。それは常に人間より優位に立てるという利点と、自分に都合が良いように歴史を変えたいと思っているのだろう。人間は歴史から様々な物を学ぶのだが、妖怪はその選択肢を意図的に奪っているのだ。
里に住む妖怪達は、毎日の生活を楽しむ事しか考えていない。山に住む妖怪達は、同じく山に住む同士達の為だけに歴史を創る。里に住む人間は歴史を纏める余裕など無い。これでは幻想郷の歴史はまだ動き始めていないのと同じである。
僕は人間と妖怪の為に日記を書いている。僕の日記はそのまま幻想郷の歴史書となる予定である。それが幻想郷に住む妖怪と人間のありきたりの生活に吹く、新しい風となる筈だからだ。
「――いやぁ、今日は大漁だったぜ。こんな日は二度と無いかも知れないな」
「何を大げさに言ってるのよ。ここん所毎年こんな感じじゃないの」
魔理沙と霊夢の二人が、帽子や肩に掛かった落ち葉を払いながら店に入ってきた。
数年ほど前からだろうか、季節の変わり目になると何故か幽霊が増加するので、この時期に霊夢達が幽霊を片付けてまわるのが恒例行事の様になっていた。
毎年繰り返される幽霊増加、僕にはかすかに覚えがある。やはりこの世界は繰り返しているのだろうか。
「どうだい、今回の幽霊退治は。少しは幽霊は減ったかい?」
「それが今回も幽霊退治三昧よ。毎年増える一方なんだけど……何か対策した方が良いのかなぁ」
「実害がないのならば放っておけばよい。幽霊は、陽気で身が軽いから宴会騒ぎを見つけると集まってくるんじゃないか?」
「実害ならあるぜ」
「なんだい?」
「幽霊は食べられない」
あれは六十年以上前だっただろうか……今と同じように幻想郷に幽霊が増加した時期があった。幻想郷はその当時から変化する事を放棄し、平和な生活を築いていた。
安定した状態で且つ変化を嫌い、今のままであり続けようとする状態を『平和』という。今の幻想郷は六十年前のあの頃と同じような『平和』な状態にある。六十年周期で歴史を繰り返す……つまり、これから六十年先までの未来は全て懐かしい物なのかも知れない。
「この店に幽霊ホイホイとかないのかしら? 置いておくだけで幽霊が捕らえられるような何か……」
「うーん、幽霊を捕らえるったって、幽霊はとりもちにはくっつかないからなぁ。それに箱だろうが何だろうがすり抜けるし……」
「でも、とてもじゃないけど退治仕切れないのよ。このまま幽霊が増え続けたら、この世界はあの世になってしまうかも知れないわ」
「大丈夫だよ。暫くしたらこの幽霊騒ぎも収まる。そういう未来が予定されているんだ」
霊夢は怪訝な表情で僕を見た。
「霖之助さんも、吸血鬼や妖怪達と同じ事を言うのね」
巷は幽霊が異常発生したと言われているが、この店に出る事は少ない。そもそも幽霊は騒々しい処に集まりやすい。幽霊自体が儚くて今にも消え入りそうな存在だからであろうか、自分の存在を実感しやすい賑やかな場所に集まる。それは生きていた時の人間と同じで、人の多い処に集まるのだろう。
「未来が予定されているって言うけど、そんな訳ないぜ。毎日の生活が運だけで成り立っている様な奴もいるしな」魔理沙が霊夢を見てそう言った。
「まぁ運だけというか勘だけど、勘だって何らかの根拠があっての勘なのよ」
魔理沙が信じられない、といった顔をした。
「宴会でちんちろりんやったときも、勝負にならないくらい賽の目を当てるじゃないか。そんなのに一体どういう根拠があるって言うんだよ」
ちんちろりん? ああ、賽子の目を当てるだけの単純なゲームの事か。宴会で賭博とは極道の世界の様だ。
「魔理沙、霊夢が賽の目を確実に当てる事が出来るのは、きっと予定された未来を瞬時に計算しているからだと思うよ」
賽子の目が決定されるメカニズムに対する僕の考えを伝えた。霊夢は恐らく、賽子の初期状態を見て直感で結果が計算できるに違いない。世の中にある幸運とはそういう物だ。
「霖之助さんそれは全然違うわ。いくら何でも賽子見ただけでそんな計算できっこないわよ。計算高い人は確率でしか考えないじゃない。それに、たとえ計算してもその結果通りにはならないの」
「何故そう思うんだい? 確かに計算出来る訳が無いってのはそうか知れないが、もし計算出来たら未来が読めるって事になるじゃないか」
霊夢は呆れた様な顔をした。
「運に関しては私の方が数段理解が深いみたいだから、今日は私が教えてあげるわ。確率のメカニズムを。あとついでに未来が予定されていない事も……」
そういうと霊夢は三人分のお茶を煎れ、嬉しそうに手渡した。
霊夢の勘の良さの理由が聞けるのであれば楽しみである。僕はお茶を冷ますのも忘れて口に運んだ。
「……ほう。霊夢は初期条件が全く同じになった賽子ですら、同じ目が出るとは限らないと言うのかい?」
「当然そうなるわね。それだけで結果が決まる訳がないじゃない」
霊夢の話は難しい話ではなかったが、そこに衝撃的な真実が含まれていた。
霊夢曰く、この世界は三つの層から成り立っているのだと言う。
まず、生き物や道具などがある物理的法則に則って動く物理の層。物体が地面に向かって落下したり、河の水が流れたりするのがこの層である。
二つ目は心の動きや魔法や妖術などの心理の層。嫌な奴に会って気分を害したり、宴会を開いてわだかまりを解いたりするのがこの層。大抵の妖怪はこの物理の層と心理の層だけで世界を捉えているから、歴史が繰り返したり、未来が予定されているといった戯れ言を言うのだと言う。
だが霊夢曰く、三つ目の世界の層が世界のループを拒むらしい。その三つ目の層とは、万物が出来事を覚える記憶の層。記憶の層は増える一方で減る事が無いから、過去と全く同じ状態には成りえない。もしそれが過去と同じ状態になるのだとすれば、過去と同じになったという記憶は行き場を失ってしまうから矛盾している。記憶の層は増える一方なのだ。
物理の層が物理法則で、心理の層が結果の解釈で、記憶の層が確率の操作を行う感じで、相互に作用して未来を作る。記憶が過去の一点と同じになる事が有り得ない以上、未来が予定されることなど無いと言う。
例えば賽子を一回振って一が出たとする。もう一度全く同じ条件で賽子を落としても、一が出たという事実を賽子が覚えている以上、同じ確率になるとは限らないという。
そこまで聞いて理解しようとしていた所で「それで、どうして賽の目を読めるって言うんだ?」と魔理沙が質問した。
僕は霊夢が考える新しい世界の図に気を取られていたが、魔理沙は冷静だ。賽の目が読める様になれば、ちんちろりんで負けないだけでなく、霊夢並みの幸運を手に入れられるかも知れないからだろう。
「別に私は次に出る賽の目を読む訳じゃないわ。私が賽の目を予想したという事を、賽子が覚えているの」
賽の目の記憶に霊夢という幸運のカードが入るだけで、結果が大きく霊夢側に偏るのだという。結果が霊夢に付いてくるらしい。
「何だそれじゃあ、そんな知識、幸運の持ち主以外役に立たないじゃないか」魔理沙はふてくされた。
僕は世界の中で運の存在を何か嘘くさい、いかがわしい物だと思い込んでいた。それは未来が予定されていると考えていた事が大きな要因である。縁起物だって、ただのこじつけの塊だと認識していた。
だが、霊夢の言葉を聞いてこの世における運の存在を再確認した。運の良い人間、悪い人間は確かに存在する。験を担ぐ事で成功する人間もいる。ジンクスに囚われ失敗する人間もいる。それら全て初期条件だけと考えるのは確かに乱暴かも知れない。
確率の決定が記憶の力による物だとすれば、縁起物が確率を操作する力を持つのも当然なのかも知れない。由来が複雑で奇異である程、記憶は多岐にわたり縁起物の格が上がるのもそれを意味している。
霊夢は『この世の物質、心理は全て確率で出来ていて、それを決定するのが記憶が持つ運』だと付け加えた。
その言葉を聞いて思い出した事がある。『この世の物質は全て確率で存在しているというのは既に常識である』という様な事が書かれた外の世界の科学書を見た事があった。その本を見て、僕は『誰がその確率を確定するのか』が判らず、いまいち理解できなかった事を覚えている。
でも、霊夢が同じような事を考えていて、さらに確率の決定権が記憶にある事に気付いていた。それは驚くべき事だった。
「記憶が確率を決定する……言い換えれば因果応報とも言える、凄いね。確かにその通りかも知れない。ところで君はどうやってそんな知識を身に付けたんだい?」
いつも無為に暮らしている風に見えるけど、と付け加えそうになったが、話をスムースに進める為にやめた。
「もの凄く頭の良い人間に聞いたのよ」
「もの凄く頭の良い、って言い方って何だか頭悪そうだぜ……」魔理沙が呟いた。
そんな世界の根源にまで関わるような事まで判る人間がいるのだろうか。
「妖怪にとって歴史が繰り返されていると感じる理由は、単純に人間じゃ無いからよ。人間は短い期間で記憶の糸が途絶えるの。だから妖怪から見て人間は、生まれてから死ぬまで同じ事を繰り返しているように見える、ってだけ」
霊夢は「霖之助さんみたいにね」と得意げに語っていた。いつもとは立場が逆なだけに、少し悔しい。
「その、もの凄く頭の良い人間は、記憶を全て本に書き留めて代々受け継いできた家系なの。だから、永く生きてきた妖怪にも、記憶の少ない人間にも判らない世界が見えてくるんだって」
随分と長話をしていたようだ。既に窓の色が夕方の色に変化していた。外の紅葉が部屋の中まで染み出してきているみたいだった。
「ところでもう日が沈むが、今日は何か用事があって来たんじゃないか?」
「ああ、そうだった。今日来たのは他でもないわ」
「幽霊もあらかた追っ払ったし、これから神社で宴会するんで、香霖もどうか? って誘いに来たんだったな」
なるほど、それを言うだけで随分と時間がかかったもんだ。最初に用件を言わないからうっかり長話をしてしまったじゃないか。
「誘って貰って嬉しいが、僕はやらなければいけない仕事がある。それにちんちろりんをやったって、霊夢には敵いそうにないしね」
「仕事って、その本を書くことか?」魔理沙は僕の日記を指さして言った。
「そうだけど、ま、店自体も仕事なんだけどね」
「まだ日記を書いてたのか。三日坊主になると思ったんだがな」
「これは日記だが、いずれ歴史書になるんだよ。簡単には止めるわけにはいかない。香霖堂発、人間の知識を豊かにする歴史書さ」
ここ数年の間、紙の入手が容易になってから書き始めた日記が結構な分量になっている。僕はこれを一つの本という形にして記録を残すつもりでいる。その本が幻想郷の歴史書となり、幻想郷のアカデミズムが急激に動き出すだろう。そして幻想郷は外の世界に近づき、未来は安泰な物となる(それと同時に自分の書いた本が売れれば店も安泰である)。
今日はさらに、ランダムから事実が決定するメカニズム、何故人によって幸不幸の差があるのか、そんな事実を知っている人間がいる事等……珍しく霊夢から物を学ぶ事が出来た。『記録ではなく記憶が未来を決定する』事も自分の本に書き留める事にしよう。そして、それを読んだ人の記憶がその人の運命のメカニズムに作用すれば、未来は予想できない物になるだろう。人間は妖怪も考えつかない未来へ進み、妖怪も明日何が起こるのか判らないといった、人間と同じ未来の楽しみ方が味わう事が出来たら幸いである。
――外はすっかり暗くなっていた。今頃霊夢と魔理沙は神社で宴会をしているのだろう。いつもの面子で、いつもの様にお酒を呑んで、いつもの様に賭け事で霊夢が勝って、いつもの様に呑み過ぎてしまう……。
でも、決して世界はループはしていない。何故なら、霊夢も魔理沙も妖怪達も、人間と妖怪のハーフであるこの僕も、その事を記憶しているから。その記憶が毎日を少しずつ楽しくしていくのだから。

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