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Curiosities of Lotus Asia: Chapter 23

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Return to Curiosities of Lotus Asia or Fiction by ZUN


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最新単行本『東方求聞史紀 ~Perfect Mement in Strict Sence』(一迅社)が大好評発売中!! そんな今回は、なんと魔理沙と霊夢がいっぺんに病気になってしまうエピソード。この二人を苦しめる病の正体とその原因とは…!?
流行する神 Fashionable God 
冬も中頃のこの時期になると、納戸の引き戸ががたつき開け難くなる。熱を発する物の少ない納戸の上の屋根には、雪が積もり易いからだ。雪が積もればその分屋根は重くなり、引き戸は押さえ付けられて開け難くなるのである……と言う理由もある。と言う理由もあると言ったのは、もう一つ重要な理由があるからだ。
それは秋の収穫まで外で活動していた穀物の神、穀霊が次の春の農事始めまで宿る場所が納戸だからである。ただの物置である納戸は、たちまち神聖な場所となり、その神々しさに引き戸が重く感じられるのである。
大黒様の様に台所に宿る神もいる。唯一の台所に宿るのではなく、料理を作る場所その物に宿っているのだ。
この様に道具だけではなく、様々な場所自体にも神は宿っている。ただし、神は感情や考え方と言った概念に宿ることはない。必ず何処かにに宿っている物質や場所がある。そこが神様と、妖怪や妖精、幽霊との決定的な差なのだ。
 
「おや、どうしたんだい? いつもなら店でも大きな物音を立てずに行動できない君にしては、静かじゃないか」
黒ずくめの格好の魔理沙が、力なく歩いているといっそう黒く、小さく見えた。
「ゴホッ。いつも静かなつもりだが……やっと辿り着いたぜ、ふう」
「風邪かい? 調子悪そうだね。温かい物でも飲むかい?」  "Are you cold? You look bad. Do you drink something hot?"
白湯だけど、と言ってストーブの上のヤカンからお湯を茶碗に注いだ。
「ああ、済まない」と言って魔理沙は椅子に腰掛けた。 "Ah, sorry." said Marisa, and sit on a chair.
「風邪だったら、家で大人しくしていた方が良かったんじゃないか?」
「寝てれば治る普通の風邪だったらな。ゴホゴホッ」
「異常な風邪をひいているのか」 "You have an unusual cold?"
僕は余り普通の風邪をひいたりはしない。別段体が強い訳ではないが、風邪をひかないのには訳がある。妖怪は人間と同じ病気にかかる事は殆ど無いからだ。人間には人間しか罹らない病が、妖怪には妖怪しか罹らない病が存在するのである。ちなみに人間の病は体の病、妖怪の病は心の病が多い。
そこで人妖である僕はと言うと……実は両方の病気に罹りにくい。だから風邪の魔理沙が訪れてきても伝染る心配は無いのである。
「いやぁ、実はこれが風邪なのか判らないんだが……まぁ全身に力が入らないんだ」
「ふむ。あいにく、僕は体は強くないが余り病気にならないんでね。症状を言われても、どんな風に辛いのかよく分からないんだよ」
「ああ、まぁ香霖に病気の診断を期待はしていない……ぜ。今回は見て貰いたい物があって来たんだ」
 
――カランカラッ Knock, knock.
「霖之助さん、居るかしら? ゴホッ」
「おや? 霊夢も風邪かい?」 
「風邪かどうかよく分からないけど……全身に力が入らなくてねぇ」
と言うと、来て早々、勝手に奥に上がっていった。奥には既に先客の病人が寝ている。
「既に魔理沙が寝ているよ」 "Marisa is already sleeping."
「そう、魔理沙も調子悪いのね」 "Well, Marisa is bad, too."
「今日は病人が二人目だ。僕は簡単には風邪をひかないからね。医者でも始めようかな」
「……どのみち儲からないわよ。どうせ」
それは僕を信用してくれる患者が少ないと言う意味なのか、それとも幻想郷に滅多に医者が必要になるような人間が居ないと言う意味なのか判らなかったが、二年程前から腕の立つ医者が現われ、それなりに繁盛していると言う話を聞いた事がある。後者の可能性は低い。
その腕の立つ医者は、迷いの竹林に突如として現われ、里の人間のみならず妖怪達の病気をも治していると言う。霊夢と魔理沙の二人の症状が手に負えないようだったらその医者を呼ぶ事も考えた方が良いかもしれない。
それにしてもそんな調子の悪いと言う霊夢は、何故うちに来たのだろう。うちには薬も余りないと言うのに……。
 
「ゴホゴホッ、今日は捜し物があって来たのよ。欲しい物は骨董品だから……香霖堂が一番良いかと思って」
「骨董品の捜し物だって? そんなの調子が良くなってから来れば良かったじゃないか」
「そんな訳にも行かなくて……その捜し物を見つけない限り不調は悪くなる一方だから」
「何か訳ありっぽいね。その異常な風邪は」
霊夢の話だと、里の人間の大半は既に同じ症状の風邪にかかっているそうである。風邪と言ってもそんなに咳が酷い訳ではないが、全身から力が抜けて歩くのが辛いらしい。それにこの風邪は、人に伝染り易いのだそうだ。
「ゴホッ、捜し物は……小さな壺とか……なんかそう言った骨董品。出来るだけ古い方が良いわ」
「壺……? 巫女を辞めて、新しい宗教でも始めるのかね」
「あと重要なのは、未だ名前が付いていない物に限る事。ゴホゴホッ」
 
僕は霊夢が何を企んでいるのかいまいち掴めなかった。調子が悪いと言うのにわざわざ店にまで来て、挙げ句の果てに名前の付いていない骨董品が欲しいだなんて……ってそう言えば、魔理沙も何か見せたい物があると言っていたが、今は寝ているようだから良いか。
「骨董品と言えど、名前の付いていない物となると……かなり質が落ちる物が多くなってしまうよ。えーと……」
「神社にある物でも良かったのかも知れないけど、私にはどれが名前が付いていない物なのか判らなくて……。ゴホゴホッ」
名前が付いているのかどうか、見て判るのは霖之助さんしかいないでしょ? と付け加えた。僕はそれを聞いて気を良くし、少し得意げに持ってきた骨董品の解説をした。
「例えば、これなんてどうだい? 時代は三百年は遡るお皿だ。実用の為だけに作られた物だが、出来は良くなかったので実際には使用されなかったらしい。その為、これと言って名前は付けられていない」
「うーん。出来ればもう少し古い物はない? 例えば千二百年位前の……」 
霊夢はお皿を一瞥すると細部を見るまでもなくそう言った。骨董品の出来よりも、古さだけが重要と言った感じである。
「千二百年だって? うーん、そんなに古い物はそうそう無いよ」
香霖堂は何でも屋でしょ? 出来るだけ古くて、それで名前の無い物が欲しいの。と言いながら霊夢は横になってしまった。道具屋とか骨董品屋とかは言った気がするが、何でも屋とは言った憶えはない。
だが、一度得意げに解説してしまった手前ここで引き下がる事は出来ず、商品にならない様な物を仕舞ってある納屋まで行って、千二百年前位の品を探す事にした。重く冷たい納屋の扉を開けた時には、霊夢が何故そんな物を欲しがっているのか考えようともしていなかった。
「ふぅ。めぼしい物は見つからなかったが……霊夢、例えばこれなんてどうだ?」
そう言って、僕は掌より大きい位の平べったい三角形の塊を見せた。
「これは、千年以上前の壺の破片だ。名前は無い」 "This is a fragment of a jar more than 1,000 years ago. It has no name."
流石にこんな破片だけでは骨董品としての価値は皆無だが、千年以上前位の古い物と言うと選択肢は無いに等しい。 
「だが、この破片もただの破片ではない。元々は何かを封印してあったと言う曰く付きの壺の破片だ。済まんがそこまで古いとなると、こんなのしか見つからないんだよ」
「ゴホゴホッ。良い物を持ってるじゃない。流石霖之助さんね」
ちょっと貸してと言って破片を取り出すと、玉串を取り出し小声で語り始めた。何やら儀式でも始めるようだ。僕には霊夢の狙いが全く見えてこない。
「……伴善男の神のの声の聞こえん事を……」
珍しく、巫女らしい仕事をしているように見える。恐らく、異常な風邪と何か関係があるのだろう。霊夢は簡単な儀式を行い破片に御札を貼ると、一息を付いた。
「ふう、これで一安心。これを里に持っていって廻れば、みんなの病気も治る筈よ」
「ほう、それは良かった。だが、さっきから何をしているのかさっぱり判らない。詳しく説明してくれないか?」
 
霊夢は気分的に楽になったのか、謎の儀式を終えた後は調子を取り戻している様子で説明を始めた。
まず、この病気は人に伝染る病気なのだと霊夢は言った。同じ風邪でもたちの悪い風邪で、その伝染力は強く、近くにいるだけで伝染ってしまうらしい。何年かに一度くらい、こう言った原因不明の病気が流行る事があるという。
人に伝染る病気は、一人だけ治療したところで埒があかない。完全に病気を鎮めるには、病気を起こしている祟り神を何かに封印する事が必要なのだという。
霊夢曰く、病気が伝染る原因とは、その病気を持っている祟り神が猛威をふるっている事である。その祟り神を見つけ出して封印し、祟り神を封印した事を病気の人に見せて信じて貰う事で病気が治るのだと言う。
「この様に、目前の目的の為に一時的な信仰を集める必要がある神を、流行神って言うのよ。今回の件で言えば、病気を鎮める為に病気の神をでっち上げて信仰を集めて、本当の祟り神になってしまう様な神様の事」
「でっち上げ……なのか。病気の神としてでっち上げられてしまうなんて、災難な神様だな」
「今回の病気は、伴善男様と言う神様に祟り神の役をして貰う事にしたわ。この神様は、ちょくちょく疫病の祟り神の役を受け持つの」
「それは酷いな。伴善男と言えば……実在の人間じゃないか。確か、千二百年位前の……」
「良いのよ。最初は疫病に対する恐怖心と、伴善男様の恨みの念の強さが重なってそうさせられたみたいなんだけど、今では『疫病が治るのなら、祟り神でも何でもやっちゃるよ』って言う感じで気軽に汚れ役を受け持ってくれる有難い神様よ。それに何だか暇そうにしていたので、今回頼んでみたの」
巫女と神様はそんなにフレンドリーな会話をするのだろうか。神様の声の代弁者である巫女しか窺い知れない世界である。
「名前の付いていない物が欲しかったのは、名前の付いている物には既に別の神様が宿っているからよ。名前の付いていない物で、さらに長い年月が経ている物が憑代としては最適なのよ」 
「なるほどね。人間の病気という物はそうやって治す物なのか……。ちなみに、さっき信仰を集めるのは一時的と言っていたが、病気が治ったら神様はどうなるんだい?」
「病気の恐怖が無くなって忘れ去られた神霊は、もう何の力も持たなくなってしまうわ。現に伴善男様だって一般的には神様という扱いは受けていないでしょ?神社を立てたりする事もないし。封印したこの破片だって……最終的には無縁塚に捨てられるわね」
「何だか、神様の使い捨てのみたいな話で酷いね」
「流行神って神はそう言う宿命なのよ。基本的には忘れ去られている方が人間にとって幸せな事。それにしても封印していた筈の伴善男様が、何で暇そうにしていたのかしら?」
 
あー、何だか楽になってきたぜ、と言って上半身を起こした魔理沙が話に割り込んできた。
「寝ながら霊夢の話を聴いていたが、なんだ病は気からって事なのか?」
「そんな話はしてないでしょ? 病は神からよ」
魔理沙は「何となく、思い当たる節があるんだ」と言って、自分の帽子に手をかけ、小さな古い小皿を取り出した。
「今日は、香霖にこの小皿を見て貰おうと思って来たんだが……実はこれを拾ってから何だか調子が悪くなってな」
「それはまた古いお皿だね。何か曰くがありそうな……」
「価値があるかと思って拾ったんだが、何だか突然調子が悪くなったんで、二重の意味でも見て貰おうと思ってな」
「ふむ。これは特に名前は付いていないお皿だね。残念ながら大した付加価値は無さそうだが、物自体は古くて珍しい一品であることは間違いないな……」 
霊夢はその皿をよく見ていて、不思議そうな表情をしていた。
「うーん。そのお皿、何処かで見た事のあるお皿だけど……」
「ちなみに、この皿には最初は汚い御札が貼られていたからはがして綺麗にしたんだ。それからだな、調子が悪くなったのは」
 
――屋根の雪が落ちる音がした。霊夢が魔理沙に説教を始めてからどの位経ったのだろうか。説教の内容ももう三巡はしている気がする。
「あのねぇ、御札とか貼ってあったらやたらはがしちゃ駄目なの! その小皿は無縁塚で拾ってきたんでしょ? そんなもの何が憑いてるかあんたには判らないでしょうに」
「流行神が封印されているとか素人が見ても判らないぜ。そんな滅多な物、ホイホイと捨てんなよ」
「流行神は信仰が失われるまで、人里から離れた所に捨てる必要があるのよ。それをわざわざ無縁塚まで出向いてあんたが封印を破ったから、伝染病が流行ったのよ? 判る? 何で伴善男様が暇そうにしているのか判ったわ。あんたが封印を破ったのね」
「そんなに大きな声を出すなよ。病み上がり途中なんだから」
「ああもう。あんたが馬鹿な事をしたお陰で、里の家を一軒一軒訪ねて廻らないといけないじゃないの」
霊夢が伝染病を治す為に、一軒一軒家を訪ねて祟り神に対する信仰を集める姿は面白そうだが……僕はそんなんで本当に伝染病が治るのか懐疑的である。祟り神の封印が病気を治すのであれば、僕が余り病気にならない理由や、妖怪と人間の病の種類が違う理由が説明付かない気がする。
迷いの竹林に現われた医者はそんな神頼みの治療ではなく、もっと高度な治療を施すと言う。見た事もない器具を使い、体の中を写真に写したり、時には駄目になった体の一部を正常な物と取り替えたりしてしまうらしい。
それはそれで、この目で見た訳ではないので僕は懐疑的なのだが……本当だとすると、迷いの竹林に現われた医者は、幻想郷の医療の現状に嘆いて開業した、知識人、もしかしたら外の人間なのかもしれない。

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