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Curiosities of Lotus Asia: Chapter 21

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ファン待望の最新単行本『東方求聞史記』が、一迅社より近日中に登場予定!!もちろん中身はZUN氏描き下ろし。カバーは本連載同様、唖采弦二氏が担当し、本文では、つくりものじ氏が全東方キャラを描き下ろしたぞ。さらに楽曲などを収録したCD-ROMも付いた、ファン必携のアイテムだ!
神の美禄 The God of Sake
 妖怪の山が紅く黄色く燃える。気温は急激に下がり、紅葉によって生命に狂いを生じた木の葉は、秋の冷たい風に耐えきれず落ちていった。妖怪の山の方向に日が沈み、赤く染まった空を天狗達が舞っている。妖怪の山は、この時が一番美しい。
十月は神無月と呼ばれ一般には神の居ない月と言われているが、神々しい美しきを持った十月がそのような呼ばれ方をするのはあり得ない話である。本当は醸成月、つまりこの時期収穫した穀物でお酒を醸す月、が正しい。
 
「何か、機嫌が良さそうね」
「今年の新酒を造る準備をしてるんだ。機嫌が悪い訳がない」
霊夢は訝しむ様子で、お酒なんて造っていたの? と訊いてきたが僕は、ここは香霖堂だからね、とだけ返答した。
今日は魔理沙と霊夢と僕の三人で、秋の味覚の茸でお酒を一杯呑む事になっている。霊夢と僕はその時間を待っていた。肝心な茸は、まだ店には居ない。
「へぇ、霖之助さんも、お酒を造っていたなんて知らなかったわ。今度呑ませてよ」
寒くなってくるとお酒が美味しく感じられる。そのお酒も新酒で、さらに自家製だといっそう美味しく感じられるだろう。十月は新米の季節だ。だから、この新米で新酒を造る事に決めたのだ。
「まあ、呑んでもらうのはいいけど……」
「けど?」
「大量に呑まなければね」
霊夢や魔理沙達は勿体ないくらい味わわずに呑む。折角造った貴重なお酒も、それでは意味がない。
「そんな大量に呑まないわよ。美味しくなければ」
「いや、美味しいさ」
「じゃあ呑むかもね」
実は僕がお酒を造る理由は、飲みたい為だけではない。お酒は原料の米から始まって、どこからがお酒なのか。物の名前が判る僕の能力を持ってすれば、その疑問も氷解する筈。ふとそう思ったのだ。
日本人がお酒を飲むようになった歴史は古く、千何百年も昔の大陸の歴史書にも「人性嗜酒」と記録されているという。その時には既に日本独自の醸造の技術を持ち合わせていたのだ。
そんな日本人が生み出した米のお酒は、鼻に抜ける芳醇な香りと淀みのない味を持ち、その味も洗練されている。お酒にも様々な種類があるがその中でもかなり上品なお酒である。白米同様、癖のない味はあらゆる料理に合い、食卓には欠かせない。
「この店で醸造ねぇ。こんなに様々な神様が住んでいるような場所でねぇ。美味しくできるのかしら?」
話しぶりからして、霊夢はお酒に関して造詣が探いようだ。
それも不思議な話ではない、お酒と神社には密接な関係がある。本来、巫女とはお酒を飲む事が仕事でもあった。お酒を飲む事で精神状態に異常を来し、それによって神の世界と交信できたのだ。証拠に、お酒の神様は「くしの神」と呼ばれる神様で、「くし」とは「奇し」の事、つまりお酒を飲んで狂う事を指している。
神社の儀式にお酒は欠かせない。一般の人よりもお酒を必要とする職業の為、昔はお酒の殆どを神社で醸造していた。今の博麗神社でもお酒を造っているとい

う話は余り聞かないが、霊夢の話しぶりからすると造っていてもおかしくはない。何故なら、神社にはいつも謎の神酒が補充されているのである。

「で、いつからお酒を造っていたの?」
「今年が初めてだ」
霊夢は怪訝な顔をした。
「げげ、そんな簡単には神様は醸してくれないわよ。最初は凄い液体が出来そうね。大量に呑まなくて済むかも」
そんな顔をされる事は予想していた。
「良いんだよ。何年も続けていくうちに良い物になっていくだろう。失敗すると判っていても、最初が彿ければ成長はあり得ないんだから」
 
―――カランカラン
「香り松茸、カキシメジ♪ すっかり秋になったんで茸を採ってきたぜ」
「カキシメジは毒茸だ」
「まあ細かい事は気にすんな。茸を焼いて酒でも呑もうぜ。既に霊夢も来ているし」
今晩のメイン食材が店に到着した。帽子に摘んだばかりの茸を入れて、上機嫌の魔理沙はもう呑む気でいっぱいである。
「ああ、判ったよ。あと少ししたら準備が終わるから茸でも洗って待っていてくれ」
「準備って何の準備だ?」
質問するだけして質問して、答えはどうでも良いのか茸の選別に入っている。
「霖之助さんがお酒を造り始めるんだってさ」
魔理沙は、へぇそうかい、と驚いた様子も見せずに「今から醸造したって今晩の酒には間に合わないぜ」と誰もが判っている事を教えてくれた。
「当たり前だ。店にはまだ、お酒になるであろう物しかない。呑みたければお酒も自分で調達して来なさい。神社にはお酒が沢山あるのだろう?」
「お酒なら大丈夫だ。こんな事もあろうかと持ってきてあるぜ」
自分の事だけは抜かりは無い。茸の山の下から一升瓶を取り出した。霊夢は驚いた様子で、「あ、そのお酒は……」と言った。
「ああ、神社に飾ってあったので持ってきた」
「そのお酒は本当はまだ早いんだけど……」
霊夢は呆れた様子で言ったが、瞬時にどうでも良いかと言う表情に変わった。
「そうか、香霖もお酒を造るのか。そう言えば昔、私も自分でお酒造ろうとした事があったんだがな」
「へぇ、それは初耳だわ。やっぱり失敗したんでしょ?」
「へぇ、初耳だな。やっぱり失敗したのかい?」
「大失敗だった」魔理沙は、てへっと自分の頭を叩いて見せた。失敗談を語るにしては機嫌が良さそうに見える。彼女にとっても、もうどうでも良い過去の話だからだろう。
「お米でも果物でもお酒が出来るんなら、茸でも出来るのかと思って茸焼酎に挑戦してみたんだ。そしたら大変な事になった」
その理屈は判らんが、魔理沙はそう言う水平移動の思考を得意とする。魔法だって、同じ理屈で魔法の常識を打ち破ろうとする。それまでは五つの元素しかなかった魔法に、どれにも属さないような力を入れたりするのも彼女ならではだ。時には妖怪も驚くような魔法を生み出す事もある。
だが、茸焼酎はどうなのか。
「前衛的な焼酎ね」
「大変な事ってなんだい?」
「別の得体の知れない茸が生えてきたんだよ」
 
魔理沙のしょうもない失敗談に霊夢は笑っていた。
「お酒はね。何からでも何処でも出来るって訳じゃないのよ。お酒とは、神様に捧げた物を神様が自分の好きなように変化させる事で出来るの。第一条件として醸造場所は神様の宿る場所でないと、まず上手くいかないわ。それから、もっと専門的な話になるけど……」
 霊夢の話は、神学の話から徐々に生物学的な話へと移っていった。神様が好んで醸す物は糖分である。果物など最初から糖分が豊かな物なら、簡単にお酒が出来るらしい。運が良ければ、潰すだけ潰して放っておいてもお酒になると言う。実際、木から落ちた葡萄や梨などが、元の果物とは違うお酒の様な匂いを発している場合がある。木に成っている状態よりも、熟れて落下した後の方に動物や蜂などが群がっているのを見た事があるだろう。それは、お酒に近い発酵が進み、生き物を惹き付ける匂いを発しているからである。
しかし、日本酒の米の様に、糖分の少ない穀物からお酒を造るには、まずは米に含まれるでん粉を糖分に変える発酵が必要である。これはお酒を造る発酵とは別の物だが、必ず通らなければ成らない段階である。米のでん粉が分解され、糖分が多く含まれている状態になった物を、麹と呼ぶ。麹が出来てしまえば、後は果実酒と同じで神様にお任せで良い。
この様に、日本酒の醸造は果実酒とは異なり、自然に放って置いただけでは中々出来ない。手間の多さは加工品の品と格を高めるのだ。他にも、日本酒と同等なお酒には麦から作る麦酒などがある。これもまた、格別である。
僕はお酒を造り始めるに当たって、お酒の作り方を自分で調べたので大体の事は霊夢に訊く前に知っていたが、彼女の説明の詳しさからするとやはり今でも神社でお酒を造っているようである。
「要約すると、お酒になるには糖分が必要なのよ。得体の知れない茸じゃ大した糖分は無さそうだし、ちょっとお酒にするには難しいかも知れないわね」
「随分と詳しいな。そんな事ばかり勉強してないで、巫女としての勉強でもすればいいのに」魔理沙はそう言ったが、霊夢はお酒を造っているであろう、と確信した僕がフォローした。
「いや、お酒の作り方を熟知する事は、巫女として当然であり必要な事だよ。何故なら、巫女は神と交信する為にお酒を使うんだ。昔は神社でお酒を造っていて、巫女の仕事の一つだったからね。今はどうなのか知らないけど……」
僕はそれとなく霊夢にふってみた。神社で今もお酒を造っているのなら、何らかの反応が見られると思ったからである。だがその目論見も外れ、霊夢は話を続けた。
「ま、魔法の森にある魔理沙の家じゃ、別の発酵が進んじゃって美味しいお酒にならなそう。香霖堂もどうなんだか……」
霊夢はきょろきょろ周りを見渡した。確かに散らかっているが、そんなに不衛生ではないと思っているのだが。
「この家にはお酒を醸す神様は宿っていないと言うのかい?」
霊夢は店内の至る所を見ている。外の世界の式神、天狗の写真機、幽霊のランプ……。一通り見た霊夢はこう言った。
「お酒以外の物に醸してしまう神様が多過ぎるのよ」
 
 ――茸の焼けた、香ばしい匂いがしてきた。
霊夢のお酒に関する講義から時間が経ち、既に外は暗く、赤く染まっていた山は既に黒い影しか見えない。くしの神も、酒好きの妖怪も、自分の好きなお酒を取り出して朝まで飲み明かす時間である。
軽く塩をふった茸は、火が通ると秋の胞子を店内に充満させた。その香りだけでお酒が進む。霊夢と魔理沙の二人は、茸を取り合いながらはしゃいでいた。僕は、焼いた茸と一緒に飲むお酒が、自分で造ったお酒になる日を想像して、茸をほおばった。
発酵が徐々に進むお酒は、どの段階でお酒なのか。実は僕には想像出来ていた。
「あ、霊夢。そのカキシメジは軽く毒があるから食べない方が良いよ。後で寝込む」
「大丈夫だ。毒抜きしてあるぜ」
霊夢は、暫くうーんと唸っていたが、魔理沙が「寝込んでも大丈夫だ。神社の事は任しておけ」と言ったのを聞いて、箸で摘んでそっと窓から捨てた。
実は魔法の森に生えている茸の事は、魔理沙程詳しい人間は居ない。カキシメジに見えた茸も、恐らく別の安全な茸である可能性が高い。森は陽の当たる部分が少なく、湿度も高い為か、生えている茸も他に生えていない様な物だらけなのである。
僕は常念坊に似た茸を取り、少し囓るとお酒を口に含んだ。すると茸の芳香がお酒の力により、喉と鼻を駆けめぐり、えも言われぬ心地よさに包まれた。
お酒は、どの段階でお酒なのか。
それは、美味しい食材と共に口に付ける瞬間で、漸くお酒になるのだと思う。それまでは、お酒なのかも知れない液体に過ぎない。神が造るお酒は、人間の手の及ばない所で造られていく。それがお酒なのか、はたまた酢なのか、それとももっと別の液体になってしまうのか、文字通り神のみぞ知るのだ。
そんな神の美禄であるお酒は、当然呑む人を選ぶ。お酒の神である奇しの神に敬意を払うとしたら、お酒は酔わなければいけない。大いに呑んで大いに酔う事が大切なのだ。
お酒にしても煙草にしてもお茶にしても珈琲にしても、嗜好品と言う物は、人間や妖怪の心の尺度を測る良い指針となる。それら嗜好品が嗜める者かどうかで、懐の深さや感性を見極める。鬼や天狗、河童など、強い妖怪ほどお酒にも強い。吸血鬼が毎日紅茶を飲むのも、血の色に似ているから、ではない。全て、嗜好品を嗜めるような者だから強い妖怪に成った、ただそれだけなのだ。
「どうした? 箸が進んでいないな。その妖念坊の毒にやられたか?」魔理沙はそう言った。
「なんだ? その妖念坊ってのは」
「今、香霖が食べている茸だよ。常念坊に似ているだろう? でも明らかに大きさが違うので、妖怪の常念坊と言う事で妖念坊って名付けた」
嫌な予感がする。
「魔法の森にしか生えていないが、香りが良くてね。大きくて味も良いぜ。勿論――」
勿論、食べても大丈夫なんだろう。食べていけない茸を網の上に置く筈がない。この時は神ではなく、魔理沙に祈った。
「勿論、幻覚作用はあるが。軽いから大丈夫だ」
 
 僕はそこで二人を追い出し、夕食会を中止した。二人ももう充分食べたと言う事もあって、大人しく帰って行った。
いくら本人は味見して大丈夫だったとしても、人に毒茸を食べさせるのは問題である。魔理沙は魔法の森で暮らしていで慣れているかも知れないが、普通の人間には森の瘴気は長時間耐えられない。そんな森に生えている茸である。もう少し安全な物だけを選んで欲しいが……。
ところで、一つだけ疑問が残ってしまった。霊夢は神社でお酒を造っているのだろうか、という事である。僕が意気揚々とお酒を造ろうとしていた為か、魔理沙の茸におっかなびっくりだった為か、直截訊く事が憚れ、答えは分からないままになってしまった。




Curiosities of lotus asia 20 01

Curiosities of lotus asia 20 02

Curiosities of lotus asia 20 03

Curiosities of lotus asia 20 04

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